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語り手A 井筒屋町造商店、この建物ができて100年たった。それだけでもすごい。明治38年は1905年ですが、どんな時代なんでしょう。
その約10年ほど前には、所沢銀行、そして秋田家も出資した所沢商業銀行ができました。国分寺と川越の間に鉄道が通って、所沢はますます直接東京と結びつくようになりました。明治38年から5年経つと、陸軍の飛行場ができ、7年経つと電話。それから少したって電灯。ですから、まだランプで、水道もない。ガスもない、暖房は火鉢とコタツ。道は舗装がない。自動車はまだ東京でも5年後に38台というくらいなく馬車や牛車が運搬手段でした。
明治38年1月2日には旅順陥落。日露戦争の真っ最中で、5月にはロシアバルチック艦隊38隻のうち19隻を沈め、5隻を奪うという大勝利を迎えた年でした。
同じく、1月に俳句誌ホトトギスに夏目漱石の「我輩は猫である」の連載が始り、この2年前に開場した雛澤座のちの歌舞伎座では当時人気の「金色夜叉」がかかっていたかもしれません。
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語り手A このような時代、織物産業の盛んな時代に、秋田商店(井筒屋)は糸を商っていました。木綿糸、国内産や輸入糸の問屋さんでした。ここの糸が、近在の機屋さんに持ちこまれ染められ織られて縞や絣の製品となり、金山町の織物市場へ出てきます。そして主に東北で売られたそうです。価格は川越ではなくこの所沢市場で相場が決っていたというのですからたいしたもんです。
そんな100年前の秋田商店(井筒屋)の様子を、私たちはちょっと想像して見ました。短いものですがどうぞ、ごゆっくり御覧下さい。
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【第一幕】
明治38年1月15日 小正月・昼過ぎ
埼玉県入間郡所沢町下町
綿糸商・秋田商店(井筒屋)の土間と帳場 |
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番頭 えー、私は石松といいまして、松井村出身でこの店の番頭です。明治18年の大火のあとに入ったから、もうかれこれ20年だ。近頃は景気もいいし・・・、さて仕事仕事。
番頭と雇い人捨吉が帳簿の確認をしている。
番頭 捨吉これも在庫調べておいてくれ。
捨吉 はい、わかりました。
捨吉 捨吉でございます。井筒屋を共同経営することになった東京堀留の日比谷商会から所沢の方を手伝って来いと言われ、経営指導が役割と考えて仕事をしています。・・・が、今日も在庫の確認ですよ。
捨吉 番頭さん、この店の分の在庫は白地も紺地ももうありませんが。
番頭 そうか。では入金はどうなっているか調べてみよう。あ〜〜困ったなぁ入金されてないよ。さっそく明日、催促しよう。
捨吉 ところで、私、考えているんですが、今は景気がいいと言っても、このまま成り行きに任せていては先はわからないですよ。この時期に新しい展開を考えた方がいいと思うんですけど・・・
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番頭 新しいことといえば、私も里芋で焼酎を作って売り出したらどうかと思っているんだが?
捨吉 またその話ですかぁ? 焼酎なんて無理ですよ。それから、その話は南っ原の炭屋さんでもききましたよ。
番頭 ま、それはいいとしてお前の考えを言って見なさい。
捨吉 いつも外でさぼっていると思われているでしょうけど、まちの声を集めているんですよ。実は、この間の三八市でおもしろい青年に会ったんですよ。
番頭 おもしろい青年?
捨吉 山口村のガンちゃんというんですけどね、なんでも伊予に一年ほどいって絣の大量生産の方法を勉強してきたっていうんですよ。
番頭 ふーん伊予絣…うーん、それで?
捨吉 旦那に紹介してもらおうと、番頭さんに相談なんですよ。
番頭 ガンちゃんの話を聞いた方がいいかい?
捨吉 そりゃそうですよ。井筒屋だけでなく所沢のまちにとっても必要です。私のような東京からの来たれ者や若者の考えも取り入れながら、所沢のまちを活気づけたとなれば、100年先の人たちだって、井筒屋を見習うってもんですよ。実は、ガンちゃんには井筒屋に顔を出すように言ってあるんですよ。今日あたり、来るんじゃないかと思うんですけどね。
番頭 そうか、来たら話を聞いてみるか。で、次はこの店の照合頼むよ。
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岩作(ガンちゃん) こんにちは。先日はどうも・・・
捨吉 おお、ガンちゃんよく来てくれたね。こないだのことは番頭さんには話しておいたよ。今、番頭さん呼んでくるから待ってておくれ。
捨吉が帳場に引っ込んで、番頭にガンちゃんが来たことを伝える その間に、ガンちゃんの自己紹介
岩作 私は実際に上山口の堀口村いてまして。所沢市史研究第15号47ページに登場する明治18年生まれの中村岩作です。20歳。伊予に勉強に行って見て来ました。伊予ではなー、山口で織っとるのと同じ量をたった一軒の機屋が、動力の織り機を入れてやってんですわ。もうーびっくりしました。それでまあ製品も立派ですねん。こりゃかなわん、このままではあかんと思いましてな。言葉?ショックでぐちゃぐちゃ まだなおってません。
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捨吉 番頭さん、この人がさっきお話したガンちゃんです。
番頭 これはこれは明けましておめでとうございます。まあおかけください。お〜〜いおタケドン、お茶をお客様にお願いしますよ。
お竹 へ〜〜〜〜〜〜いぃ。
番頭 あんた捨吉の話だと遠くまで行って織物の勉強をしてきたそうじゃないか。
岩作 そうなんです。伊予の国では一軒の機屋で、山口の村全部と同じ量を織り出すんです…それに二本絣で品質もいい。それで、帰って来て試しに二本絣でやってみたんです。
番頭 そうかい、えらいねーなかなかできることじゃない。これがそうかい…なかなかいいじゃないか。
岩作 で、これを伊予と同じ様に、機械で織りたいんです。それには五百円ぐらいかかると思います。そのお金を是非こちらでご融資を・・・・・・・・・・
番頭 えーーーー五百円。 そんな大金私の一存ではとても無理だ。ちょうど良い、そろそろだんなさんが帰ってくるころだ。だんなさんに取り次ぐから話をきいてもらいなさい。
岩作 ありがとうございます・・・・・・・・・・・・・・・
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旦那が銀行の会合から帰ってくる。
旦那 お〜い、帰ったぞ!!
番頭・捨吉・お竹 お帰りなさい・・ご苦労さまでした。
旦那 おや、お客さんかい・・・
番頭が岩作を紹介 何か頼みたいことがあるらしいと伝える。
番頭 この方は、捨吉の知り合いで山口村のガンちゃん…さんです。何でも伊予の国で織物の勉強をしてきたそうでこれが試作品だそうです。で、旦那さんになんでも相談があるそうで…
岩作 へ〜旦那さんにはお初にお目にかかります。上山口堀口の中村岩作です。
旦那 山口から来たのかい・・寒いのにご苦労さんだったね。中村さんの息子さんかね、お宅はいい仕事をするから知ってるよ。それで、今日は何の用だね。
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岩作が試作品の生地を旦那に見せて伊予で学んで来たことを話す。
旦那は試作品を手にしながら
旦那 なるほど、そうか。どれどれ、ウ〜ン、よく出来てんな〜。伊予か・・あそこも良い飛白を作る処だからな・・今日も銀行の寄り合いで、織物問屋の向山さんが最近粗悪品が出回っているようで、所沢飛白の評判が落ちないか心配だと言ったら、皆も心配していたよ。所沢飛白は庶民が手に入りやすい値段だし、丈夫で使い勝手がいいと皆に喜ばれているけでど、何時までも今のままではいけないことは解っているけどよ、そう簡単には改良できね〜からな〜。 コバッタの家も多いしな〜 織り子に機職人は波かぶるぞ、機械織りはおめーまあ大変なことになるよ。組合には話したのかい?
岩作 いや、それが、なかなか。
旦那 そうだろう。難しいな〜。 (チョット間を置いて) ま〜チョット二階に上がれや・・・ゆっくり話を聞こうじゃね〜か。
(女中のお竹に向かって・・)お茶を持ってきてくれ、それと、平助饅頭もな・・・。 あの饅頭は酒饅頭と言ってな、子供頃から大好物だったんだ。
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この場面の写真を撮った方
写真を送っていただけませんか?
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旦那 お〜そ〜だ、番頭さん、初荷も順調に出荷できたし、昨年も商いもお蔭さんで上手くいったし、ど〜だ、今晩は二上楼で一杯やんか・・(捨吉に向かって)お前も所沢に来て初めての正月だし、多いに楽しんでくれ・・(番頭に向かって・・)ちょっくら二上に行って座敷の予約をしてきてくれ、いつもの綺麗どころを5〜6人呼んでくれる様にな・・ 豆太郎、と猫奴は必ず呼んでくれよ。
お竹 旦那さん、私は?
旦那 あんたは留守番。
お竹 えーーーーーっ!!!
旦那 (岩作に向かって)そ〜だ、おめ〜も一緒にど〜だ、親父さんにはいつも良い仕事をしてもらってるから、一緒にいくべ〜・・帰りは辰五郎さんの人力車を呼んでやんから・・
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旦那と岩作が二階に上がって行く。 女中は居残りで、くやしい
御新造 お竹、しょうがないよ、お前の行くところじゃないの、二上は。でも、まったくくやしいねぇ。そうだお竹、あしたあたしと雛澤座にいっちゃおう。
お竹 やったーおかみさん、うれしい。
御新造・お竹 「一月の一七日、宮さん、善く覺えてお置き。來年の今月今夜は、貫一はどこで此月を見るのだか!再來年の今月今夜……十年後の今月今夜……忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ!いいか、宮さん」
語り手A さて、秋田さん大変な贅沢と見えますが、これがこの散財がいわば秋田さんの所沢での仕事。秋田さんだけではないでしょうが、いわば外から集まってきたお金を町場に回す大事な公共的な役割でした。そう自然と、活性化の役割をになっていたと、こう言えるでしょうね。
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【第二幕】
平成7年1月下旬
井筒屋町造商店
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語り手B さて、それでは現代の井筒屋町造商店は、どうかといいますと、難しい漢字が並んでいますが「中心市街地活性化拠点施設」なんてことになってます。大変です。さて、第二幕は2005年1月下旬ある日の井筒屋町造商店です。
町の中に生まれたこの新しい「井筒屋町造商店」100年前の時と同じ様にちょっと、うれしそうにピカピカ光ってます。秋田さんが町のために役立ててくれるならと、提供を申し出ていただき、市と県の補助金を使ってお化粧直しをしました。周囲の古い建物がドンドンなくなってとても残念な思いと、それでもここで、この土地で生きていく為には仕方がないじゃないかと納得する気持が交差して、そういう町の人たちの心持がここに、この井筒屋町造商店を残しました。
こんな大事な井筒屋町造商店は、どんな風につかったらいいのでしょうか? それを皆さんと少し考えてみたいと思います。これからやるのは、一例に過ぎません。いや、そうじゃなくてこうなんじゃないかという方がいらしたら大歓迎。是非ともその案もやってみましょう。
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語り手A 井筒屋では、登録ボランテイアが店番してます。私たちワーキンググループもいわば登録ボランティアです。店番の仕事は、朝来たらお湯沸かしてお茶の用意、それから掃除、さらに柱や羽目板の雑巾がけ、これは大事です。そして出席をパソコンに記入する。こんなところが最低限の仕事でしょうね。
店番 そうですね、がんばります。
語り手A そして、事業計画なんですが、まず簡単なところで「町のお休み処」ということが計画の中にうたわれています。
あ、お客さんが見えられたようです。
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婦人A あら、このお店いつできたの?えっ、入ってもいいの?
店番 はいどうぞ。
婦人B あらっ、とってもレトロで、とっても良い雰囲気じゃなあい。
婦人A いま買物で、お友達にばったり会っちゃって、どこで話そうかと思ったら、なんか面白いお店できたっていうでしょ。
店番 お茶どうぞ。今日は、どちらからいらしたんですか?
婦人B 私は三ヶ島、そこの前のバス停から帰ろうかと思ってたんだけど、バスの時間がね、待つのよー。冬はね、寒いのよねー、バス待ってるのも。
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婦人B こういう古い建物に入れるなんていいわね、素敵。
婦人A なんだか、うん、落ちつくわね……(ゆっくりと見まわす)このおうちは、いつ頃のものなんですか?
店番 ああっと…・ちょっと待ってくださいね。
店番がパンフレットなどを探そうとする。
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建築家の大平さんがタイミングよく蔵から出てきて、
大平 荒俣さーん、いいものがあったよー。織物整理工場の張石の半纏が出てきたよー。
店番 ああ大平さん、すごいですね! あの、こちらの方にこの建物について聞かれたんですけど。
大平 建物のことですか、まかせてください。
大平さんとご婦人二人奥に行って、話しこむ。
「この建物はですねー…」
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語り手B 店番など、運営に関わる登録ボランティアは、誰でも一度研修を受けていただければ、なれます。
ああっ、今度は向こうからでっかい子供が二人、ゲームをやりながらやってきました。
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子供二人 「おれのー」「いやだ、おれのだよ」「おれのー」「いやだよ」
「じゃいいよ、将棋やろう」「えっ、将棋なにそれ」「将棋だよ」
「知らない」「教えてあげるよ」「えー…」「いっしょにやろう」
「いやだー、おれやらなーい」「やろうよ」「おれやらない」
爺さん おいおい、なにけんかしてるんだ。
子供A けんかしてない。
爺さん お、お前将棋か、おい、仲良くやれ、おじさんがおしえてやる。
子供B わかったよぉ。やるよ。
爺さん 所沢は江戸時代から将棋の名人が3人も出ているんだ。この近くにはなー、将棋の名人のお墓があってなー、将棋盤の上に墓石がのってるんだぞ。 昔はよぉ、夏になるとよ、大通りにな、竹で出来た縁台を出してな、蚊に食われながら将棋をさしたもんだ。その頃の子供はみんな将棋が強かったなー。
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爺さん 剣玉も良くやったよ・・・今度剣玉大会をここでしようか。
子供 剣玉ってな〜に?
爺さん (剣玉についてチョット講釈をいれる。)
子供 剣玉なんて今売っているとこあるかな〜。
爺さん ここの並びの麻彦さんに売っているよ。
語り手B 近頃は、子供たちにとって町で遊ぶ環境もぶっそうになりました、井筒屋が爺さんと子供が会話を交わすような場や機会を提供できたらいいな。そんなことが自然と生まれるような、優しい場所であってほしいと…私たちは、想像します。
あらら、うれしい。最近マンションに住み始めた人が来店ですね。
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新住民 あの〜最近所沢に引っ越してきたんですが、どこかお勧めの散歩コースは無いですかねぇ・・・・
爺さん 中央公民館主催の「町歩き歴史探訪・故郷散歩」が毎月第ニと第四の金曜に開催されてるよ。
店番 そうそう、まち歩きならこんなマップもありますよ。
爺さん 今いるのがここで、ほれ神明社とか深井醤油とか、いろいろおもしろいところがあるから行ってみたらいい。
子供A ここの駄菓子屋、いつも行ってるんだ。おもしろいんだよ。
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店番 (婦人たちに)このお茶おいしいですか?それはここでも買えるんですよ。ほかにもお勧めは、そう荒幡肉店のコロッケ、鳥大の焼き鳥、海老屋の豆腐、深井醤油とか、食文化は焼だんごやうどんをはじめいろいろあるんです。それと、もうすぐ向かいのお店が農産物の直売所になって、所沢のサトイモとか採れたての新鮮野菜が買えるようになりますよ。今話したお店は、中央公民館主催のまち歩きのときにも寄れますよ、たぶん。
婦人A あらま、それは、いいわねー。
店番 峰の坂饅頭というのがありまして、それを教えてくれる人がいらっしゃるのでみんなで教わりながら作りましょうというのも企画してるんです。
婦人A お饅頭の作り方も教えてくださるの、楽しそうですね。
婦人B それじゃさ、わたしたち実は、何人かでお料理をね、つくってパーティとかできるかしら?
店番 うーんと、どうなんでしょ、できるのかなぁ・・・
婦人A あそれと、ここで主婦が作ったものを売りたいとか、できるの?ほら、ボックス・ショップ、いまわりと、皆さんがやってますでしょ。
店番 それはできるはずです。たしか運営委員会が開かれていて、そこに話しに行くとよいと思います。さっきのパーティもそこで話し合いですね。
婦人B なるほどね、みんなに教えてあげましょうよ。
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客 すいません、トイレ貸して下さーい。
電話が鳴る。
全員、舞台に電話を取りに来てあがり、そして受話器を取る動作
全員 はい、もしもし、私は現在の運営委員です。 あなたは? はい、未来の運営委員ですか。 うれしいです。 ありがとう、よろしくお願いします。
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ありがとうございました。
キャスト
旦那、爺さん |
三上 博史 |
店番 |
荒俣 桂子 |
番頭石松 |
梶谷 和義 |
婦人A |
前田 明子 |
雇い人捨吉 |
権田 和司 |
大平さん |
大平゛茂男 |
岩作 |
小澤 浩史 |
子供A |
青木 邦雄 |
女中お竹 |
竹内千賀子 |
子供B |
大石 健一 |
御新造、婦人B |
小原恵利子 |
新住民 |
鈴木 進 |
語り手A |
成沢 富雄 |
語り手B |
原 幸香 |
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